在

   第一章 考究の出立点

 世界はこのようなもの、人生はこのようなものという哲学的世界観および人生観と、人間はかくせねばならぬ、かかる処に安心せねばならぬという道徳宗教の実践的要求とは密接の関係を持っている。人は相容れない知識的確信と実践的要求とをもって満足することはできない。たとえば高尚なる精神的要求を持っている人は唯物論に満足ができず、唯物論を信じている人は、いつしか高尚なる精神的要求に疑を抱くようになる。元来真理は一である。知識においての真理は直《ただち》に実践上の真理であり、実践上の真理は直に知識においての真理でなければならぬ。深く考える人、真摯なる人は必ず知識と情意との一致を求むるようになる。我々は何を為すべきか、何処に安心すべきかの問題を論ずる前に、先ず天地人生の真相は如何なる者であるか、真の実在とは如何なる者なるかを明《あきらか》にせねばならぬ。
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 哲学と宗教と最も能く一致したのは印度《インド》の哲学、宗教である。印度の哲学、宗教では知即善で迷即悪である。宇宙の本体はブラハマン[#「ハ」は小書き] Brahman でブラハマン[#「ハ
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