見よ」とて差し出さるるは一片の紙切れで有る、文句は「至急御話し申し度き事有之候間、直ぐに銃器室まで御出被下度候、若し私を恐れて躊躇なされ候わば夫が何よりも、御身が古山お酉たる証拠に候、浦原浦子より」と有る。扨は叔父が昨夜拾ったのは此の書き附けだ、秀子が手に持ったままアノ室へ這入り、鉄砲を取る時に落した者と見える、此の書き附けが何も彼も説明して居るのだろう、余はグウの音も出ぬ、唯叔父に向って頭を垂れる許りだ、叔父「其の方は直ぐに倫敦へ行ってお浦を呼んで来い、一応当人を詰問した上で、松谷秀子に向い、己から充分に謝せねば成らぬ」是も有理至極の言い分で有る、余「ハイ直ぐに倫敦へ行きますが若しお浦が茲へ来ぬと言い張れば」叔父「其の時は己が行く」凛然と言い切った、逆らう余地もない。
余は直ぐに倫敦へ帰ったが、お浦は早や茲でも荷物を引き纒めて出奔した後だ、唯余に一通の走り書きを残して有る「貴方が命を捨ててまで折角の私の計略を邪魔するとは驚き入り候、貴方がアノ女を何れほど愛するか又私を何れほど愛せぬかは明らかに分り候、勿論私も御存じの通り初めより貴方を愛する心はなく、唯丸部家の相続が全く他人に渡るを
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