惜しみ貴方と夫婦約束をなせしまでゆえ、今は約束を取り消して綺麗に他人となり互いに誰と婚礼するも自由自在の身に帰る可く候。愛無くして夫婦と為らば末は互いに妨げ合いて不愉快に終ること既に昨夜までの事にて思い知られ候、私は根西夫人に従い今日出発して大陸へ旅立ち、貴方が私に分れて如何に淋しきかを思い知る頃帰り来る可く候、私の留守中にあの仲働が叔父様を(併せて貴方を)鎔《とろ》かし丸部家を横領するは目に見えたる所なれど如何とも致し方無く候、今既に貴方も叔父様も心の鎔けたる者に御座候、彼女は確かに幽霊塔の底に在りと云う宝物まで奪い去る大望に候、彼の女の身に深い秘密の有ることは、左の手に異様な手袋を嵌め、何の場合にも夫を脱がぬ丈にても明白の次第に候、貴方なり叔父様なり彼の女と婚礼の約束を成さるには彼の手袋を取らせたる上にて成さる可く候、是だけ御誡《おんいまし》め申し置き、猶貴方が彼の女に陥られる事あらば※[#「※」は「研」のつくりの部分に同じ、読みは「そ」、42−下24」は全く陥めらるる貴方の過ちゆえ私は知り申さず候」
余は「何の小癪な」と嘲笑ったが、兎に角お浦から夫婦約束を解かれて自由自在の身と
前へ
次へ
全534ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング