令嬢だと思わせる様に智慧に逞しい女ですもの私一人の力に余るは知れた事です、爾と気附かずに相手にして此の様な目に逢ったは全く私が馬鹿な為です」と何処までも怪美人を下女にして仕まって憤々と怒ッて此の室を出た。
 余は松谷秀子にも済まぬが兎も角お浦を捨て置く訳に行かぬから引き続いて室を出たが、見るとお浦は当家の夫人に送られて、慰められつつ自分に充行《あてがわ》れてある二階の室へ這入って仕舞った、余は直ぐに元の客間へ帰って行くも何となく極りが悪く、少し廊下でグズグズして凡そ二十分も経った頃一同の前へ出たが、一同は余ほど興を覚し、単に一座のテレ隠しの為に松谷秀子を強いて再び音楽台へ推し上せたと見えて、秀子が又も琴台に登って居る、けれど秀子も何となく沈んだ様子で音楽も甚だ引き立たぬ、其の傍に附き切りで秀子の為に譜の本を開いて遣りなどする親切な紳士は年にも恥じぬ余の叔父で有る、叔父は余の居ぬ間に余っぽど秀子にお詫びを申したらしい。
 其のうちに客も一人二人と次第に退き去り、全く残り少なと為って愈々会も終りになった、秀子は曲を終って降りて来たが、第一に余の傍へ来て「本統に私は浦原嬢にアノ様に立腹させて
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