済みませんでした、直ぐに私も自分の室へ退こうと思いましたが皆様が夫では猶更本統の喧嘩らしくなるとて達ってお留め成さる者ですから」余「イエ何も貴女が済まぬなど仰有る事はありません、全くお浦が貴女へアノ様な無礼な言い掛りをしたのですよ」秀子「此の様な時は虎井夫人でも居て呉れますと又何とか皆様へお詫びをして呉れますのに」余は此の言葉を聞き、初めて虎井夫人の居ぬに気が附き「オヤあの夫人は何うしました」秀子「ハイ獣苑の虎が抜け出したと聞いて、若しも大事の狐猿を噛み殺されては成らぬと云い倫敦まで逃げて帰りました」
言って居る所へ給使の一人が何か書き附けの様な者を持って来て秀子に渡し「直ぐに御覧を願います」と言い捨て立ち去った、秀子は「誰が寄越したのだろう」と云って開き読んだが、余はチラと其の文字を見て確かにお浦が寄越したのだと知った、扨は男ならば決闘状の様な者では有るまいかと、此の様に思ううち秀子は読み終って立ち去ろうとする、余「お浦から呼びに寄越したのなら、何もお出なさるに及びません、私が貴女に代ってお浦に逢いましょう」秀子「イヽエ、自分で行かねば宜く有りません、益々我が身に暗い所でも有る様に
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