か」怪美人「イイエ私はお酉を能く知って居ますよ、今は何所に居るか知りませんけれど幼い時は友達の様に仲能く致しました」この打ち明けた而も訳もない返事に、お浦はギャフンと参った、ギャフンと参って何うするかと思うと「エ、悔しい」と云って立ち上り「何方も私には加勢して下さらぬ、道さんまで知らぬ顔で居るのだもの」と恨めし相に泣き出した、思えば可哀相にも有る、全く自分の間違った疑いの為自ら招いた失敗だとは云え満座の中で大声に言い出した事が少しも功能無しに終るとは成るほど悔しくも有ろう。
 叔父も非常に当惑の様子、余も捨て置き難い事に思い、お浦を取り鎭めようとすると、物慣れた当家の夫人がお浦を抱いて、宛で、小供を取り扱う様に「貴女は未だ幼い時から我儘に育った癖がお失せ成さらぬから了ません、第一其の様に人を疑う者ではなく、疑ったとて此の様な所で口に出す者では有りません、口に出せば自分の方が恥ずかしい思いをするに極って居ますよ、殊に松谷さんは「秘書官」の著者でも有り立派な紹介を以て此の国へ来た方ですもの」此の当然な戒めに少しは合点が行ったか「ハイ私が悪う御座いました、相手は下女の癖に大勢の人様に、全くの
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