計を検めると丁度午後の一時より五分前だ。
一時の鳴るが合図であると、殆ど競馬の馬が出発の号砲を待つ様に、余は張り切って緑盤の許に行き、今にも一時の鐘が鳴るか、今にも一時の鐘が鳴るか、今にも緑盤が動くかと、見詰める目に忽ち留る一物は、緑盤の縁に介《はさ》まって食出《はみだ》して居る絹の切れで有る、見紛う様もない日影色の地合は確かに秀子の着物である。
余は之を見ると共に胸が張り裂ける様に躍った、今更怪しむ迄もない様な物の之で見れば秀子が此の緑盤を潜って塔の底へ降った事は最早火を見るより明らかと云う者だ、此の所を潜る時に、被物の端が緑盤へ引っ掛かったのを、秀子は其のまま引きちぎって進んだのだ、愈々以て猶予はならぬと、余は其の絹切れを手に握り、時計の鳴るを待つ間もなく、一時とはなった、時計の鐘は鳴った、緑盤は動いた、手に握って居る日影色の絹は盤の動くと共に脱け出て余の手の中に帰した。
第百五回 時計の囚人
時計の音と共に此の緑盤の動くを見るのは今が二度目だ、此の前にタッた一度しか見た事は無い、何処まで動いて其のあとが何の様になる事か其の辺は少しも知らぬ、けれど動く途端に其の隙間から潜
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