棚に用うるのだ、戸棚の中には一冊の大きな本が有る、今度は余が此の本を取り出して見ると昔し昔しの厚い聖書だ、是ほど立派なのは図書館にも博物館にも多くはない、之を若し考古家に見せたら千金を抛っても書斎の飾り物にするだろう、何しろ珍しい書籍だから「是は丸部家の宝物の一つでしょうね」といゝつゝ表紙を開いて見ると、これは奇妙、表紙裏も総革で、金文字を打ち込んで有る、文字の中にも殊に目に附くは、最初に記した「咒語」の二字だ、思えば昨夜、怪美人がこの室に丸部家の咒文が有るといゝ余に暗誦せよと告げた、即ち此の咒語に違いない、咒語か、咒語か、何の様な事を書いて有る、文字は鮮《あざや》かで有るけれど、仲々難かしい、余は漸く読み下した。
[#以下14行表罫囲み、本文とのアキなし]
明珠百斛 めいしゆ    王錫嘉福 わうかふく
     ひやくこく        をたまふ
妖※偸奪 えうこん    夜水竜哭 やすゐ
     たうだつ         りようこくす
言探湖底 こゝにこていを 家珍還※ かちん
     さぐり          とくにかへる
逆焔仍熾 ぎやくえん   深蔵諸屋 ふかくこれを

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