人が有ると見える此の花は未だ萎れて居ぬ」と云って取り上げた、全く余の思う通りだ、怪美人が今朝茲へ来たという事を余に知らせるのだ、余は親切の印ともいう可き此の花をお浦風情に我が物にされて成る者かと殆ど腕力盡で引奪《ひったくっ》たが、悲しい哉花よりも猶大切な者をお浦に取られて仕舞った、夫は花の下に伏せてあった一個の鍵である、お浦は花を余に取られて惜しみもせず、直ぐに又寝台に振り向き「ア、丁度花の下にこれ此の様な古い銅製の鍵が有ります」と云って、今時のよりは余ほど不細工に出来た鍵を取り上げた、扨は「怪美人が此の鍵を受け取れ」と余へ注意する為、鍵の上へ花を載せて目に附く様にして置いたのだ、余は此の鍵をも取り上げようと手を延べたのに、お浦「オット爾は了《いけ》ません、此の鍵は私が拾ったのだから、真の持主が現われるまで私が預ります、誰にも渡しません」と言い切り早や衣服の何所へか隠して仕舞った。
爾して余と叔父とが上の時計室を検めて居る間に、其の鍵を方々の錠前へ試みたと見え忽ち声を上げ「オヤ茲に此の様な物が有ります」と叫ぶから行って見ると寝台の枕の方にある壁の戸棚を開けて居る、今の鍵は確かに此の戸
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