係などが余り旨く出来て居無くて、何の為だか訳が分らぬ室なども有るけれど叔父の気には充分入ったと見え、叔父「フム悉く雑作を仕直せば仲々面白い屋敷になる」と云い、愈々買い取る事にするとの意を洩した、下の検査は是だけにして今度は塔の上へ登ったが、検め検めて昨夕余が怪美人に逢った室迄行って見ると、昨夕は此の上に在る時計室へ上る道が分らなんだのに、今朝は壁の一方に在る秘密戸が開いて居て時計室が見えて居る、何うして此の秘密戸が開いたのかと敢て怪しむ迄もない、今朝六時に宿を立った怪美人が茲へ立ち寄り此の戸を開けて置いたので有ろう、怪美人が此の秘密戸の開閉の仕方を知って居る事は昨夕時計を捲いたので分って居る、此の戸の開け方を知らずに時計を捲く事は勿論出来ぬ筈だから。
とは云え怪美人は何故に今朝故々此の塔へ来て此の秘密戸を開けたのだろう、余は何とやら余等に対する親切で故々此の戸を開けた儘で置いて呉れたのだと思う、爾すれば外にも猶室の中に何か怪美人の来た印が有るかも知れぬと思い、室の中を見廻すと、お紺婆の寝台の上に一輪の薔薇の花が落ちて居る、余よりも先にお浦が之を看て「オヤオヤ今朝か昨夜か此の寝台へ来た
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