か、自分では嫉妬の一念に目が眩んだと云いますが私の立ち去った後、貴方が壁の傍へ来て、丁度長三の居る所へ背を向けて立ったのを幸い、ソッと秘密の戸を開き貴方を刺したのだと申す事です」
 長三が其の様な事をするは余に取って左まで意外な事ではない、けれど余は今が今まで確かに彼とは思い得ず、又壁の間などに秘密の戸や秘密の道などが有る事も知らねば、到底説き明かす事の出来ぬ不可思議の事件だと思って居た、是で見るとお浦の口から未だ何の様な意外の事件が説明せられるかも知れぬ。

第百回 成功の種

 勿論幽霊塔は、奇妙な建築で、秘密の場所のみ多いけれど、彼の書斎の壁の背後に人の隠れる様な所の有るは知らなんだ、探偵森主水さえ看破る事が出来なんだ、此の向きでは猶何の様な不思議の事を聞くかも知れぬと、余が耳を傾くると共にお浦は徐々《しずしず》語り続けた。
「貴方が怪我して、イヤ刺されて本箱の蔭に仆れて居ようとは私も秀子も其の時は未だ知りませんから、誰も聞く人はないと思い、云い度い儘を云い、争い度い儘に争った事は定めし御存じでしょう、爾して争いは私の勝と為り終に秀子の左の手袋を奪い取り其の下を見ましたが、全くお
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