様な所で此の様な顔を見るとは、余りの事で自分の眼を疑い度いけれど、余の眼は見損じなどする眼でない、今まで幽霊塔に満ちて居る秘密の一部分と云い度いが寧ろ大部分が今窓の中に隠れた其の顔に包まれて居るのだ、読者は此の顔を誰のと思う。
第九十七回 彼奴とは彼奴
窓に隠れた其の顔は、実に意外千万な人である、余は一時、秀子が事をさえ忘れる程に打ち驚き、直ちに馬を庭木に繋いで其の家の玄関とも云う可き所の戸を推し開き中に這入った、中は空間同様で誰も居ぬゆえ、今しも件の顔を見た奥の間の方へ行こうとするに界の戸に錠が卸りて居る。
戸を叩き破っても奥へ入って見ねばならぬ、余は昨夜探偵森主水を縛った事を思えば人の家宅へ闖入する罪を犯す位は今更恐れるにも足らぬ所だ、戸に手を掛けて一生懸命に揺って居ると、一方の窓から「貴方は何をなさる」と咎めつつ六十にも近く見ゆる老婆が出て来た、見れば其の手に幾個の鍵を束ねて持って居る、多分是が此の家の主婦人であろう、余は「奥の室に居る人に合わねばならぬ用事があります」と云い其の婆の持って居る鍵を奪い、婆が驚いて妨げる間もないうちに早や界の戸を開いた、此の戸の中が確かに彼
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