の顔の隠れた室である。
 婆の足許に鍵を投げ遣って置いて戸の中へ入ると、猫に追い詰められた鼠の様に隅の方に蹙《すく》んで居るは彼の顔の持主である、最早詮方のない所と断念したのか、立ち上って余に向かい「貴方は余り邪慳です。乱暴です、人の許しも得ずに此の室へ這入って来て」と余を叱る様に云うは、正しく窮鼠の猫を噛む有様である、此の窮鼠を誰とする、読者は大概推量し得たであろう、消失して更に成り行きの知れなんだ浦原お浦である。
 お浦が何うして紛失した、何うして此の家に隠れて居た、多分は種々の秘密が之に繋がって居る事で有ろう、余は何も彼も説明される時の来た如く思い、捕吏が罪人を捕える様にお浦の手を捕り「ハイ邪慳に乱暴に、私が此の室へ闖入するのを貴女は拒む権利が有りますか、お浦さん、貴女は実に女の身に有るまじき振舞いを為し他人に非常の損害を与えました、今は其の損害を償い、神妙に謝罪の意を表す可き時が来たのです」
 お浦「エ損害と仰有るか、謝罪と仰有るか、私こそ一方ならぬ損害を受けた女です」怒る様には云うけれど、実際怒る丈の勇気はなく、事の全く破れたを知って、絶望の余り空元気を粧うて居る事は其の声の
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