子を貴方の妻になさい」血を吐く想いで言い切った。

第九十五回 証拠とは何の様な

 余は全く降参した。「秀子を貴方の妻になさい」と権田に向かって言い切った、真に血を吐く想いでは有るけれど是より外に仕方がない、斯うせねば到底秀子の汚名を雪《そそ》ぎ、秀子に其の身相当の幸福な生涯を送らせることは出来ない、斯うするのが秀子に対する真性の愛情と云うものだ。
 権田は別に嬉し相にもせぬ、宛も訴訟依頼人に対して手数料の相談でも取り極める様な調子で「なるほど流石は貴方です、夫でこそ清い愛情と云う者です、併し一歩でも今の言葉に背いては了ませんよ、秀子に対して、何所までも其の有罪を信ずる様に見せ掛け貴方の方から愛想を盡したと云う様に仕て居ねばなりません、爾して居れば秀子は必ず貴方を賤しみ、斯うも軽薄な、斯うも不実な、斯うも浅薄な男を今まで我が未来の所天《おっと》の様に思って居たは情け無いと、貴方の傍へも来ぬ事になりますから、其の後は私の運動一つです、其の機を見て私が親切を盡せば、貴方の不実と私の実意とを見較べて、漸く心が私の方へ転じ今日貴方を愛する様に私を愛し始めます、宜しいか、少しも貴方は秀子に向か
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