も探偵森主水の口から夫だけの事が直ぐに公の筋へ伝わります、秀子は無論此の国に居る事が出来ず貴方と共に此の国此の社会と交通のない他国の果てへ逃げて行く一方です、逃げて行っても何時逮捕せられるか一刻も安心と云う事がなく風の音雨の声にもビクビクして、三年と経たぬうちに年が寄ります、早く衰えて此の世の楽しみと云う事を知らぬ身に成って了います、爾して貴方に対しても妻らしい嬉しげな笑顔は絶えてなく夜になると恐ろしい夢に魘《うな》され、眠って居て叫び声を発する様な憐れな境界に成るは必定です、此の様な事に成って夫婦の幸いが何所に有りましょう、爾して貴方は此の妻が少しも斯様に世間や物事を恐れるに及ばぬ身だと知って居ながら少しも夫を証明する事は出来ず、少しも妻の苦痛を軽くする事は出来ず、アノ権田の妻に仕て置いたなら女傑とも烈女とも云われ充分尊敬せられて世を渡る事の出来る者を、己の妻と仕た許りで此の様な苦しみをさせるものだと、自分で気を咎める念が一日は一日より強くなり、貴方も安き日とてはなく、丁度自分の妻と能く似た陰気な夫婦が出来ましょう、私は之を思うて満足します、イヤ一時の恋の失敗を耐えるのです、モシ丸部
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