残念と思うだけ余の心も権田の鬼心に近づくか知らん、残念残念、何とも譬え様のない残念な場合に迫ったものだと身を掻きむしる程に思うけれど仕方がない、「権田さん貴方の言葉は実に無慈悲な論理です」権田「貴方の言葉もサ」
 余は太い溜息を吐いて「権田さん、権田さん、私が若し茲で、何うしても生涯秀子に愛想を盡される様な其の様な仕向けは出来ませんと言い切れば何と成さいます」権田「爾言い切れば何とも致しませんよ、私は貴方の様に何時までも女々しく未練らしくするは嫌ですから、夫なら御随意に婚礼成さい、お目出度うと云って祝詞を述べてお分れにする許りです」余「夫で貴方は満足が出来ますか」権田「出来ますよ、恋には負けても復讐には勝ちますから、ハイ恋は一時の負、復讐は生涯の勝」余「復讐とは何の様な」
 権田「貴方と秀子と婚礼するのが即ち復讐に成りますよ、先ア能くお考えなさい、貴方が秀子を妻に仕ましょう、貴方は秀子を潔白な女と思っても世間では爾は思いません、何時何人の手に依ってアノ顔形が世間に洩れ今の丸部夫人は昔養母殺しで有罪の裁判を経た輪田夏子だと世間の人が承知する事に成るかも知れず、イヤ縦し顔形は現われぬとして
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