や》かした事は余が確かに聞いた所だ、其の時秀子は余の許へ来てさえも手巾《はんけち》を以て巧みに左の手を隠して居た、左の手に恐ろしい証拠の傷が有るにあらずば、何が為に斯くまでも左の手を隠すだろう、是だけで余が唯一点の望みも何うやら消えて了う様だ。
 高輪田長三が初めて来た時に、虎井夫人が非常に恐れの色を現わし、遽てて秀子を逃がした事も有る、是も輪田夏子と云う本性を長三に見現されるかも知れぬと気遣うた為では有るまいか、秀子が屡々夏子の墓へ参詣するも、夏子の死んだ事を何所までも誠しやかに思わせる為では有るまいか、或いは又何か心に思う所が有って、我と自ら我が墓に誓うのでは有るまいか、長三が此のたび余の叔父に手紙を遣り、秀子の素性をあばき立て叔父が痛く驚いたと云う、秀子が争い得ずして白状したと云うも、実は輪田夏子だと云う素性の事では有るまいか、是等は唯推量に止まるとするも外に余が直々《じきじき》に見た事柄も多少は有る。
 松谷秀子が幽霊塔の時計の巻き方をまで知って居たのは何の為だ、輪田夏子ならば充分知って居る筈では有るが、夏子でなくば知って居るいわれがない、其のほか塔の秘密に属する事を誰よりも多
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