く知って居るなどは幼い時から塔の持主お紺婆に養女として育てられた輪田夏子に悉く当てはまる、更に近頃に至っては養蟲園の一室に秀子の着物と、監獄で着る女の着物と一所に在ったなども一方ならぬ参考である、秀子が其の実夏子だとすれば少しも怪しむ可き点はない、夏子であればこそ屡々穴川甚蔵に強請《ゆす》られもするのだ、甚蔵の姉(だか妹だか)に当る虎井夫人を憎みながらも猶自分の傍より追い退ける事が出来ぬのだ。
唯穴川甚蔵が余を此の先生の許へ差し向けた一条だけが聊か合点の行かぬ様にも思われるが、イヤ是とても能く考えれば分って居る、甚蔵は甚く余に劫《おびや》かされ、最早逃れる路は唯余に秀子の素性を知らせ、愛想を盡かさせるに限ると見て取り、止むを得ず、余を茲へ寄越したのだ、まさかに殺人女と知った上で、余が猶も秀子を愛し、秀子の為に人を劫かし、又は法律の力を借りなどする事は有るまいと見て取ったのだ、秀子が若し夏子でなければ、成るほど甚蔵は余に巴里へ行けなど呉々《くれぐれ》も云う筈はない。
斯様に思い廻して見ると、今まで秀子を輪田夏子だと気の附かなんだが鈍《おぞ》ましい、秀子が夏子だと云う事は殆ど到る処に現
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