ぬ。森は猶言葉を継いで「夫に高輪田氏は一昨日此の家の二階から落ち、私が扶け起して遣りましたが、殆ど身動きも出来ぬ程と為り、一室に寝て居ます。医者の言葉に由ると外に心臓の持病もあり、夫が大分に亢じて居る様子で此の様な事に関係する力も無いのです」余の言い立つる所より森のいう所が何うも力が強そうだ、余「縦しや高輪田が関係せぬにしても、秀子の仕業と云う証拠にはなりません」森「所が秀子は叔父上の室へ出入りを止められて居るにも拘わらず、昨朝も病気見舞に托して叔父上の傍に行き今度は盃へ水を注いで呑ませましたが、其の水にも又毒が有ったと見え叔父上は前と同様に身体が麻痺しました」
 余は唯驚くばかりだ。何と弁解する事も出来ぬ、泣き度い様な声を発して、全くの必死と為って「だって森さん、人を疑うには其の人の日頃をお考えなさい、日頃秀子が、人を毒殺する様な女ですか、又高輪田長三の日頃をもお考えなさい」森「サア日頃を考えるから猶更秀子に疑いが落ちるのです」余「エエ、秀子に日頃何の様な欠点が有ると仰有る」森は直接には之に答えず「高輪田氏の日頃は一の紳士として少しも疑う所はなく、此の幽霊塔の前の持主で、お紺婆に育て
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