られて、尤も一時は大分放蕩をした様ですが夫も若気のいたずらで随分有り勝ちの事、其の頃から今までも一通りの取り調べは附いて居ますが、別に紳士の身分に恥ずべき振舞いとてはありません、之に反して秀子の身は」余「エ、秀子の身が何故『之に反して』です」森「貴方には云わぬ積りでしたが、イヤ貴方はお知りなさるまいが、秀子は前科者ですぜ」余「エエ、前科者とは何の事です」森「イヤ、既決囚として監獄の中で苦役した事のある女ですぜ」此の恐ろしい言葉には、余一言も発する能わず。

第六十八回 而も脱獄

 前科者、此の美しい、虫も殺さぬ様な秀子が、懲役から出て来た身だなどと誰が其の様な事を信ずる者か。
 とは云え、信ぜぬ訳にも行かぬ。余は養蟲園の一室で、秀子が着たと思われる日影色の着物と一緒に、牢屋で着る女囚の服の有るのを見た。其の時は或いは虎井夫人でも着たのかと思ったが、アレが秀子ので有ったのか、全く秀子が懲役に行って居たのか。
 懲役に行ったとて牢屋の着物を外まで被て出る者はない、牢屋の着物は監獄のお仕着せだ、縦しや着て居たいと思ったとてそうは行かぬ、之を着て出るのは牢破りの逃走者ばかりだ、若しアノ服を秀
前へ 次へ
全534ページ中304ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング