る何人に肖《に》て居るのだろう、叔父が斯うまで云うからには余ほど酷く肖て居るに違いない、何人に、何人に、と余は何故か深く此の事が気に掛った、併し叔父は其の事を説き明かさなんだ。
 叔父の其の言葉に美人も留まる気に成って、政治家の言葉で言えば茲に秩序が回復した、斯うなるとお浦を宥《なだ》めて機嫌好くせねば、折角の晩餐小会も角突き合いで、極めて不味く終る恐れが有るから、余は外交的手腕を振い、お浦に向って、「貴女が今夜の此の席の主婦人では有りませんか、何うか然る可く差し図して下さい」と、少し花を持せると、お浦は漸う機嫌も直り直ぐに鈴を鳴らして給仕を呼んだ、給仕は遣って来て皿の一二枚割って居るのを見て少し呆れた様子だが、誰も何と説明して好いかを知らぬ、互いに顔を見合わす様を、今まで無言で居た虎井夫人が引き受けて、半分は独言、半分は給仕に向っての様に「何うも此の節は婦人服の裳の広いのが流行る為に時々粗|※[#「※」は底本では、つつみがまえの中に夕、24−下11]《そう》が有りまして」と云いつつ一寸下を見て自分の裳を引き上げた、旨い、旨い、斯う云うと宛で裳が何かへ引っ掛って夫で皿が割れた様にも聞こ
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