え、今の騒ぎはスッカリ此の夫人の裳の蔭へ隠れて仕舞う、裳の広いも仲々重宝だよ、だが併し余は見て取った、此の夫人、何うして一通りや二通りの女でない、嘘を吐く事が大名人で、何の様な場合でも場合相当の計略を回らせて、爾して自分の目的を達する質だ、恐らくは怪美人も或いは此の夫人に制御されるのでは有るまいか、怪美人が極めて美しく極めて優しいだけ此の夫人は隠険で、悪が勝って居る、斯う思うと怪美人と此の美人とを引き離して遣る方が怪美人の為かも知れぬ事に依るとアノ贋電報まで、怪美人が出た後で此の夫人が仕組んだ業では無いか知らん、何か怪美人を余の叔父に逢わせて一狂言書く積りでは無いのか知らんと、余は是ほどまでに疑ったが愈々晩餐には取り掛った。
第七回 全く真剣
食事の間も叔父の目は絶えず怪美人の顔に注いで居る、余ほど怪美人に心を奪われた者と見える、斯うなると余も益々不審に思う、叔父が怪美人をば昔の知人に似て居ると云うたのは誰にだろう、叔父の心を奪うほども全体何人に似て居るだろう、是も怪美人の言い草では無いが分る時には自から分るか知らん。
且食い且語る、其のうちに話は自然と幽霊塔の事に移った、叔父
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