《あわ》てた様で急いで左の手を引きこめ右の手で扶《たす》けた、お浦の鋭い目は直ぐに異様な手袋に目が附き、開き掛けた叔父の目も此の手袋に注いだ様子だ、けれど怪美人は再び左の手を使わず、右の手に取った叔父の手を、無言の儘お浦に渡し、一礼して立ち去り掛ける、叔父は全く我に復り一方ならず残り惜げに「イヤお立ち去りには及びません、何うぞ、何うぞ、お約束通り食事の終るまで」と叫んだ、其の声は宛で哀訴嘆願の様に聞こえた。
美人も負《そむ》きかねた様子で「でも私の姿を見て貴方がアノ様にお驚き成されましては――」叔父「ハイ貴女のお姿に驚いたには相違ありませんが、ナニ近年神経が衰えて居ますので時々斯様なお恥かしい事を致します、でも驚きは一時の事で最う気が確かに成りました、全く常の通りです、実は貴女の御様子が、昔知って居た或人に余り能く似て居ますから、其の人が来たのかと思いました、ナニ最う一昔以前の事ですから、少し考えさえすれば其の人が貴女の様に、若く美しくて居る筈は有りませんが、夫でも貴女にお目に掛って初対面の心地はせず、全く久しい旧友にでも逢った様にお懐しゅう思います」ハテな、此の美人、叔父の知って居
前へ
次へ
全534ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング