密の場所へ隠すにしても、是では遙かに犬猫に劣る仕向だから、若し余が茲を脱け出る事が出来れば必ず此の者を連れて出よう、夫が出来ずば此の者と共に留まり自分の手で傷わって遣ろうと、余は今までに覚えぬほど惻隠の心を起した。
切《せめ》ては此の室の中で窓の隙から日の光の差す辺へでも坐らせて置き度いと思い、手を取って引くと、オヤ其の手に麺麭《ぱん》の屑《かけら》を持って居る。扨は今朝既に食物の差し入れが有ったと見える、斯う思うと誠に賤しい話では有るが余には未だ差し入れがない、時計を見れば、早朝かと思ったのに既に九時を過ぎて居る。余は俄かに空腹を感じたが、何でも余は医学士の言葉の通り断食の儘で、身体の弱り果てるまで置かれる事と見える、今からひもじいなど思う様では仕方がないと、忽ち思い直して再び彼の手を引き立てると、彼の足には鎖が附いて重さが七八貫も有ろうかと思われる鉛の錘《おもり》へ、極短く結び附けられて居るのだ。
夜前は飛んだり跳ねたりして居たのに、アア爾だ今朝食物の差し入れの時、更に繋ぎ直されたのだ、誰が此の様な事をするか、是も医学士だ、シテ見ると医学士が今朝茲へ這入って来たのだ。実に大胆不
前へ
次へ
全534ページ中267ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング