には此の美人の密旨の性質も分る時が来よう、幽霊の出る室へ寝るも亦一興と、多寡《たか》を括って「では約束します、あの室を居室と仕ましょう」美人「爾成されば、昔から那の家に伝って居る咒文が手に入りますから、其の咒文を暗誦して、能く其の意味をお考え成さい、必ず貴方に幸福が湧いて来ますよ」密使の繧ノ咒文などとは、文明の世には聞いた事も無い言葉だ、余「其の咒文を暗誦すれば妖術を使う事でも出来ますか」美人「妖術よりも勝った力が出て来ます」余「其の様な力が今の世に有りましょうか」美人「有るか無いか、夫も分る時には分ります」
何所までも人を蠱惑《こわく》する様な言い方では有るが、余は兎も角も其の言葉に従って怪美人の密旨をまで見究めようと思ったから、言いなりに成って夫から叔父の所へ帰り美人が一人の連れと共に晩餐の招きに応ずる旨を述べた、尤も此の美人の素性は語らず、単に余の知人で松谷秀子と云うのだと是だけを叔父には告げて置いた、叔父は直ちに別室を借り、之へ食事の用意を為さしめ、用意の整うと共に給使を遣って松谷秀子を招かせた、叔父は例の通り陰気に物静かだが、余の許嫁《いいなずけ》お浦は益々不機嫌だ、日頃の
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