、余は大いに用心して居る際ゆえ手早く身体を転《かわ》して何の怪我もせなんだが、後で見たら危ない哉、石片の様に見えたは古い手斧の頭であった、何者の仕業かと少し躊躇して居ると、潜戸の中から以前の婆が、手に斧の柄だけを以て立ち現われ、階段を遮って、寄らば打たんと云う見幕で、其の斧柄《おのえ》を振り上げ「茲へ入っては可けません」と叫び横手の潜戸を尻目に見た、誰も入ろうとは云わぬのに、アア分った此の婆は多少精神が錯乱して居て、爾して多分日頃から甚蔵に、此の潜戸へ人を入れては成らぬと言い附けられて居るのだ、爾すれば此の潜戸の中に此の家の秘密を押し隠してあるのではなかろうかと、此の様に思ったけれど今は穿鑿する時でない、先ず婆を取り押えようと、三つ四つは擲《なぐ》られる積りで敢然と進んで行くと婆は少年の様に身を軽く潜戸の中へ隠れて了った。
余は其の前を通って二階に入り、甚蔵の寝室と云うへ行って見ると、茲も一方ならず荒れて居て古い寝台二脚の外に蒲団|毛布《けっと》寝巻などの類が五六点、散らばって居る、其のうちの好さ相な毛布《けっと》を二枚選び寝台に載せて持ち上げたが、余の大力にも仲々重いけど、下まで運
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