ばれぬことはない、運ぼうとして俯向いて居ると、背後から出し抜けに余の頭をしたたか擲った者がある、振り向いて見ると今の婆で早や二度目を打ち下そうと彼の斧の柄を振り上げて居る、余は遽てて其の痩せた凋《しな》びた手を捕え鋭く叱り附ける調子で「何を成さる、私を敵とでも思ってですか」と云いつゝ篤と其の顔を見ると婆は柄にない子供の様な声で「オヤ甚蔵の敵ではないの」と問い返した、愈々以って狂人だ、余「敵ならば大怪我をした貴女の息子を何で故々馬車に乗せてここまで送って来ますものか」婆は驚き「エ甚蔵が怪我をした、アノ馬車に寝て居ますか」と云って捕えた手を振り離して下へ行った、狂人でも親子の情は別と見える、是で以て婆が甚蔵の母と云う事も分った、後には余が寝台を引きずり、斜めに階段の上をすべらせて下へ卸しつつも、潜戸の所を見ると早や戸を閉めて壁だか戸だか一寸と見分け難い程になって居る、狂人の用心深いも驚く可しだ、ナニ今に此の潜戸の中を検める時も来るだろうと呟き、其のまま下へ降りて廊下を其処此処と検めたが、漸く然る可き一室を見出して、甚蔵を寝かせる丈の用意を済ませた、茲には幸い余の嫌いな蜘蛛も居ぬ。爾して再び
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