開き「ヤ、ヤ、森探偵。此の品には確かに私が見覚えの有る様に思います」探偵「爾ですか、愈々見覚えがお有り成されば夫こそ屈強の手掛かりです」高輪田「見覚えが有っても軽率には云われません、私は生涯此の手袋は忘れません」余も生涯此の手袋を忘れる事は出来ぬ、此の手袋がお浦の衣嚢に在るは、全くお浦が消滅する前に無理に秀子より奪い取ったので怪しむには足らぬけれど秀子の身に取っては、何れほど重大な嫌疑の元となるかも知れぬ。
余も今は殆ど此の所に居かねて、探偵に其の旨を告げて退いたが、家の内の人々は孰れも青い顔して、少しの物音を立てるさえ憚る如く、言葉も細語《ささやき》の声でなくては発せぬ、室の内を歩むにも爪立てて歩む程だ、言わず語らず家の中へ「恐れ」と云う事が満ちて了った、が、其の恐れの中にも最も重い疑いは秀子の身に掛かって居る、誰も口には出さぬけれどお浦の死んだのは秀子に責任があると云う様に心の中で思って居るらしい、「恐れ」が家に充満して居ると同じく「疑い」も家の内に満ちて居る、其の中に早や日も暮れたが余は探偵から呼ばれたに就いて再び死骸の室へ行って見ると、死骸には早や白い布を着せてある、探偵「ナ
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