秀子も愁いの眉を展《ひら》いた様子だ。
余が此の室を去ると共に秀子は、廊下まで附いて来て、余を引き留め、小さい声で「変な事を伺いますが若しや貴方は過日虎井夫人に頼まれて夫人の被物《きもの》の衣嚢を、裏から※[#「※」は「てへん+劣」、73−上19]取《もぎとっ》て遣りは成されませんでしたか」成るほど其の様な事が有った、余は秘密を守る積りで居たが今は爾も成らず「何うして其の様な事が分ります」秀子「イエ先日私が此の室を出て少し阿父様の傍へ行った間に、夫人の被物の衣嚢が無くなって居りました、勿論夫人が自分で起き上って被物の傍まで行く力はなく、誰かに頼んで仕て貰ったに違いないのですから、夫となく聞き糺して見ますと私の居ぬ間に丁度貴方がアノ室へ夫人の病気見舞に行ったと云う事が分りました」余「其の通りです」秀子「貴方は衣嚢の中を見ましたか」余「イイエ」秀子「その中には私の盗まれた手帳が入って居るに違い有りません」余の思った所と全く同じ事だけれど、余は故と「では幽霊の真似をして私を驚かせた――」秀子「ハイ其の盗坊《どろぼう》は虎井夫人です、私は初めから疑って居ましたが、衣嚢の紛失を見て愈々爾だと思
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