引き払いますよ、彼の家を借りたのも全く浦原嬢の望みに出た事で、嬢の行方が知れぬとあれば、アノ家に居るも不愉快ですから、倫敦へ引き上げる積りですが、爾なれば貴方は何所へ逗留なさるのです」と根城から攻め立られ、高輪田は当惑げに、唯「爾なれば――、左様さ爾なれば」と口籠るばかりだ、叔父は見兼ねて「イヤ其の時は此の家へ御逗留なさる様に」高輪田は渡りに船を得た面持で「そう願われれば此の上もない幸いです」と喜んだが、此の男を此の家へ逗留させる事に成っては何の様に不幸が来るかも知れぬと余は窃に眉を顰《ひそ》めた、秀子も無論同じ思いの様だ。
第三十四回 衣嚢《かくし》は何所に
高輪田長三は余ほどお浦に執心で居た者と見え、愈々千円の懸賞を其の探偵に賭けた、爾して全で血眼の様で探偵の後を附け廻って、鳥巣庵へは帰らずに大概は此の家に居る、尤も鳥巣庵の主人根西夫婦は未だ鳥巣庵を引き払いはせず、時々余の病気見舞などに来る、余の叔父朝夫も、出来る丈は探偵と高輪田との便利を与える様にして居る。
探偵は千円の懸賞の為には一入《ひとしお》熱心を増した様だ、けれど少しの手掛りも得ぬ。余を刺した兇徒は何者、お浦の紛
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