下さい」と余ほど打ち萎れた様で余を一方の隅へ連れ行きて腰を卸させ、自分も坐を占めて、直ちに余の両手を握り「済みませんが道さん、何うぞ昔の約束に返って下さい」余「エ、昔の約束とは」お浦「貴方と私は末は夫婦と云う約束で育てられたでは有りませんか」余が驚いて只一言に断ろうとするを推し留め「先ア否だなどと仰有らずに聞いて下さい。少しも貴方を愛せぬなどと言い切って私はアノ約束を取り消し、爾して外国へ立ち去りましたけれど、アレは貴方が素性も知れぬ松谷秀子に心を寄せて居る様に思いましたから嫉妬の余りに云うた事です、外国へ行って居ると益々貴方が恋しくなり、今では後悔に堪えません、夫に此の家の養女で居る時は、何処へ出ても人から大騒ぎをせられましたが、今では誰も構い附けて呉れず、実に残念に堪えません、今までは我儘ばかりでお気に入らぬ事も有りましたろうが、是からは心を入替え、貴方の為ばかりを考えますから、何うぞアノ約束の取り消しを取り消して下さいな、ネエ、道さん」と余の顔を差し窺いたが、余は余りズウズウしいに呆れ、容易には返辞も出ぬ、お浦「道さん、お返事は出来ませんか」余「イエ返事は出来ますけれど貴女の望む
前へ
次へ
全534ページ中136ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング