同時に、余の耳へ「ナニ私の心を疑う事は有りませんよ、安心の者ですよ」との言葉が聞こえ、一方の窓の外から庭へ走り去る人の姿がチラリと見えた、少し怪しんで中へ入ると窓に靠《もた》れてお浦が居る、余「オヤ浦原さん何うして茲に」お浦「貴方に逢い度いと思いまして、ハイ多分貴方が此の室で書見でもして居らっしゃるだろうと考えましたから」余「でも戸の閉めてある室へ何うして這入る事が出来ました」お浦「私は鳥巣庵から庭伝いに茲へ来て、爾して此の窓から入りました」成るほど窓から入られぬ事はない、余「今茲で貴女と話をして居たのは誰ですか」お浦「誰も話などは仕て居ませんよ、ああ分った、私が独言を仕て居たから貴方は其の声をお聞き成さったのでしょう」余「イエ、人の立ち去る姿がチラリと見えた様に思います」お浦は正面からは返事せず、唯「小さい時から私が物を考えるに独言を云う事は貴方が能く御存じでは有りませんか」と胡魔化した、勿論たって問い詰める程の事でないから余も敢えて争わずに止めた。
余「シタが、私に逢いに来たと云う其の御用事は」お浦「折入ってお詫びに来たのです、先ア其の様な恐い顔をせずと、何うか憐れと思ってお聞き
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