かな、衣嚢の中の品物か衣嚢ぐるみに※[#「※」は「てへん+劣」、読みは「むし」、62−上13]《むし》り取って呉れとは、今まで聞いた事もない。
嫌な仕事だとは思ったが、一旦男が承知した事だから怯《ひる》みも成らず、立って行って壁に掛けた着物を取り、言葉の通りに其の裏から衣嚢を握って引き※[#「※」は「てへん+劣」、62−上17]《むし》り、爾して夫人の傍へ持って行くと、夫人は又も枕許の手文庫を指し「其の中に小さい箱が有りますから箱の中へ其の衣嚢を入れ、封をして、私の言う宛名を認め、そうして何うか小包郵便に出して下さる様に願います」益々厄介な事を云うが、詮方なく其の通りにして、余「宛名は」夫人「ハイ申しますよ」とて余に書かしめたは「ハント郡、ペイトン市の在にて養蟲園主人穴川甚蔵殿」と云う宛名だ、余は他日何かの参考にも成ろうかと思い其の名を我記憶に留めたが、養蟲園と云えば虫を飼って繁殖させる所であろうが、余り類のない園名である、夫人「何うぞ密《そっ》と差し出して、誰にも云わぬ様に願います」余は此の夫人の秘密に与るのは厭で厭でならぬけれど、詮方なく其の言葉に従い、自分で郵便にまで托して遣っ
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