ますまい、シタが余ほどのお怪我ですか」夫人「大した事も有りませんが痛みが劇《はげ》しいのです、痛みさえなくなれば、医者にも及びませぬけれど」成るほど見れば右の手へ繃帯を施して居る。
 是から数日の間、夫人は一室へ籠った儘だ、何でも狐猿の爪の毒に中《あて》られたとか云う事で、益々容体が悪い様子だ、兎に角も此の家の客分だから、余は知らぬ顔で居る訳に行かず、或る時其の室へ見舞いに行った、夫人は非常に喜んだけれど、起き直る程の力はない、床の中から痛くない片手を出し余を拝む様にして「好く来て下さった、貴方に折り入ってお願いが有りますが、病人の頼みだと思い何うか聞き入れて下されませんか」何の頼みだか、来る勿々に此の様に言われるは少し意外で有る、それに余は彼の贋電報で此の夫人の仕業と分って以来、甚だ此の夫人を好まぬけれど、身動きも出来兼ねる病人の頼みを無下に斥ける訳にも行かず「ハイ何なりと聞き入れて上げましょう」夫人「では申しますが、其所に、ソレ掛かって居る私の着物の衣嚢《かくし》に大切な品物が入れて有りますから、貴方は何うか中を見ずに、其の衣嚢を裏から握り爾して破り取って下さいまし」実に異様な頼み
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