し、自分は番人に成った積りで成る可く此の室を離れぬ様に勉めた、其の為再び幽霊らしい者は出なんだ。
 併し幽霊の出るよりも猶厭な猶恐ろしい事は沢山あった、先ず順を追って話して行こう。
 此の日の夕暮、余は日頃見知らぬ一紳士が此の家へ這入って来るのを見た、取り次の者に聞いて見ると此の土地の医者だと云う事、成るほど後には多少懇意に成ったが全くの医者であった、何の為に迎えられたと問えば、秀子の附添人虎井夫人が病気だと云う事だ、そう聞けば昼飯の席へも虎井夫人は見えなんだ。晩餐の時に至り夫人は出て来たが顔の色が何となく引き立たぬ、余は其の傍に行き「御病気だと聞きましたが、如何です」と問うた、夫人は少し怪しむ様に余の顔を見て「病気だなどと誰が、云いました」余「でも先ほど此の村の医師が来たでは有りませんか」夫人「そう知れては仕方が有りません、余り極りの悪い話で、誰にも隠して居ましたが、病気ではなく怪我ですよ、アノ狐猿に甚く手先を引っ掻れました。自分の飼って居る者に傷つけられるとは年甲斐もなく余り不注意ですから」余「併し相手が是非の弁《わきまえ》もない獣類で有って見れば、引っ掻れたとて別に恥じる事も有り
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