い白い枕の上へ、二三点血が落ちて居る、此の血は余が起きてから今まで僅か五分とも経たぬ間に落ちたのに違いない、猶能く見れば、褥《しとね》の上にも二三点、云わば雨滴が落ちたかと云う様な形になって居る、余は又も自分の目を疑ったが何う見直しても血の痕だ、何所から落ちた、天井からか、画板からか、押入れからか、天井は此の室と上の時計室との間から、人ならば匍匐《はっ》て這入れる様に成って居るから或いは誰か這入ったかも知れぬ、併し下から見た所では天井に血の浸《しみ》はない、多分は画板の間からでも、迸《ほとばし》ったので有ろう、と斯うは思っても真逆に血の落ちて居る寝床の上へ寝る訳にも行かぬ、或いは虎井夫人の連れて居る例の狐猿が壁の間か何処かで鼠でも捕ったのかと、此の様に思ったけれど狐猿が溜息を吐くなどは余り聞いた事がない。
第二十六回 愈々分らぬ
雨滴《あまだれ》の様に幾点か落ちて居る血を手巾《はんけち》で拭っては見たが、真逆に其の寝床へ再び寝るほどの勇気は出ぬ、斯うも臆病とは余り情けないと自分の身を叱って見たけれど、縦し無理に寝た所で迚も眠れはせぬだろうと思い直し、到頭其のまま起きて了った。
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