云って置きたい、此の室は塔の半腹に在るので、昇り降りの人が此の室へ這入るに及ばぬ様に室の四方が四方とも廊下に成って居る、塔の中でなくば恐らく此の様な室はない、けれど四方のうち一方だけは何時の頃直した者か物置きの様にして此の室で使う可き雑な道具を置く事に成って居る、此の様な作りだから今の物音が壁の外か壁の内かは余に判断が付かぬ、余は又も燐燧を摺り、今度は新しい蝋燭へ点火《とぼ》したが、此の時更に聞こえた、イヤ聞こえる様な気のしたのは人の溜息とも云う可き、厭あな声である、実に厭だ、溜息と来ては此の様な場合に泣き声よりも気味悪く聞こえる、或いはお紺婆が化けて出て、自分の室を占領されたのを嘆息して居るので有ろうか、真逆。
 余は蝋燭を手に持ち、寝台、読書室、談話室と三つに仕切ってある其の三つとも隈なく廻ったが、室の中には異状はない、壁の画板《ぱねる》をも叩いて見たが、古びては居れど之にも異状はない、シテ見れば室の外だ、廊下の中は何処で有ろう、室の外なら故々検めるには及ばぬと、其のまま再び寝床の許へ帰り、寝直そうと手燭を枕頭《まくらもと》の台の上へ置いたが、流石の余もゾッとする事がある、余の新し
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