らぬ人と分ったに付いてお浦の失望は見物で有ったけれど、流石はお浦だ、何うやら斯うやら胡魔化して秀子に向い「オヤ爾ですか、夫にしても高輪田さんは此の屋敷の前の持主で塔の事など能く知って居ますから必ず貴女とお話が合いましょう、是から何うかお互いに昔なじみも同様に、サア高輪田さん秀子さんと握手して御懇意をお願い成さい、ネエ秀子さん、ネエ叔父さん、爾して下さらねば私が余り極りが悪いでは有りませんか」と極めて外交的に場合を繕った、高輪田は声に応じて手を差し延べた、秀子も厭々ながらこの様に手を出したが、高輪田の手に障るや否や、宛も蛇蝎《まむし》にでも障る様に身震いし、其の静かな美しい顔に得も言えぬ擯斥《ひんせき》の色を浮かべて直ぐに手を引き、倒れる様に叔父の肩に縋り「阿父様、私は最う立って居る力もありません」とて顔を叔父の胸の辺へ隠した、確かに声を呑んで忍び泣きに泣いて居る、何で泣くやら分らぬが多分は今夜の様々の心配に神経が余り甚く動いたのであろう、叔父は傷《いた》わって其のまま連れて去ったが、高輪田は此のとき不意に恐れだか驚きだか、宛も天に叫ぶ様な音調で、「オオ、神よ」と一声叫んだ、見れば彼の眼
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