、と云う事は到底人間の目には出来ぬけれど、若し出来る者とすれば、必ず高輪田よりも猶強く輝かせる所で有ろう、余の叔父も何だか対面の様子が変だから少し怪しみ掛けたのか怪訝な顔をして居る、中で一番平気、一番何ともない様なのは秀子だ、秀子は最早高輪田が充分顔を見盡くしたかと思う頃、静かに口を開き「私は何も合点が行きませぬ、私の昔の友達と仰有った様に思いますが、幾等考えても分りません、多分私がお見忘れ申したのでしょう、失礼ですが何処でお目に掛りましたかネエ」とあどけなく問うた、高輪田は何と返事する言葉さえ知らぬ様子だ「左様です、私も、何うも、イヤ何とも、考えが附きません」秀子「夫に私は高輪田さんと仰有る御苗字さえ今聞くが初めての様に思いますが」
 余は全くホッと息した、秀子は此の恐ろしい試験、イヤ当人は恐ろしくも有るまいが、余の心には非常に恐ろしく感じた、此の大試験も苦もなく通り越したと云う者だ、お浦の疑う様な仲働きでない、古山お酉でない、姿を変えて人を欺く女詐偽師ではない、幽霊塔の前の持主たる高輪田長三さえ見た事のない全くの松谷秀子だ、米国で政治家の秘書を勤めて居た事も確か立派な書籍を著わした
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