其の平気な静かな所に一種の凄味が有るから妙だ、余は此の時高輪田の顔をも見た、彼は同様な心を以て秀子の顔を見て居るだろう。
 彼の顔は前にも云った通り、男としては珍しいほど滑らかで、余り波瀾の現われぬ質では有るがそれでも初めて秀子の顔を見た時には確かに彼の顔に一種の悪意が浮動した、何でも彼は兼ねてお浦から、此の秀子は古山お酉に違いないと云われて、全くお酉に逢う事とのみ思い詰め、己れ面の皮を引剥いて遣ろうと楽しんで遣って来たに違いない、爾なくば顔に斯う悪意の浮動する筈がない、所が彼は一目見て痛く驚いた、悪意は消えて寧ろ恐れと云う様な色になった、何でも人違いと覚ったが為らしい、併し彼仲々根強い気質と見え、怯《ひる》み掛けて又思い直した様子で、一層眼に力を込めて再び秀子の顔を見詰めた、此の時の彼の目は実に鋭い、非常な熱心が籠って居る、若し眼の光がX光線の様に物の内部まで入り込む事が出来る者なら、此の時の彼の眼光は確かに秀子の腹の中を透かして背中まで貫徹《ぬけとお》ったで有ろう、けれども彼は終に満足の様子を示さぬ。
 余も心配だが、余よりもお浦に至っては殆ど必死だ、高輪田よりも猶一層眼を輝かせる
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