すれば捲けるだろうと思い、自分の工風を実地に試験して見たのです」余「何の為に其の様な試験などを成さるのです」美人「誰も此の時計の捲き方を知った者が無いと云いますから試して置いて、爾《そう》して相当の人に教えて上げ度いと思いました」余「ですが全体貴女は何うして其の捲き方を考えました」美人「ホヽ夫《それ》は云う可き事柄で有りません」
益《ます》々怪しいけれど、兎に角此の世に、此の時計の捲き方を知る人の有るは、調べ倦《あぐ》んで居た余の叔父に取っては非常の好都合に違い無い、余「では、私に教えて下さる訳には――」と言い掛けると美人は少し真面目になり「イヤ貴方は相当の人で有りますまい、此の捲き方は一つの秘密で、塔の主人より外へは知らせて成らぬと昔から云い伝えられて居る相ですから、私も塔の持主より外へ知らせる事は出来ません」余「近々、私の叔父が此の塔を買い取るのです」美人「夫では貴方の叔父さんへお伝え申しましょう、併し夫もお目に掛って直々《じきじき》にで無くては」余「イヤ叔父は定めし喜びましょう、私が屹《き》っと叔父を貴女へお目に掛らせる事に計らいますから、何《ど》うぞ其の節は」美人は少しも迷惑
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