《すっ》かり忘れて居た、難有《ありがた》い/\、お前のお影で助かッた内儀が帰ッて来れば必ずお前を褒《ほめ》るだろう」と反対の言葉を残して戸表《おもて》へと走り出たり。
 あゝ、ロイドレ街二十三番館に住む生田と云える男こそ吾々の当《とう》の敵《かたき》なり、此上は一刻も早く其館に推行《おしゆき》て生田を捕縛する外なしと余は思えど目科は「是から裁判所へ行て逮捕状を得て来ねば何事もする訳に行かぬ」と云う余「ダッて君、裁判所へ行けば倉子が既に行て居るから吾々が逮捕状を得るのを見て、生田を逃す様な工夫を廻《めぐ》らせるかも知れぬぜ、夫に又ぐず/\する間に倉子が内へ帰り下女の言葉を聞くとしても吾々の目的は破れて仕舞う目「何が何でも逮捕状が無い事には此上一歩も運動が出来ぬから」と云い、早くも通り合す馬車を呼留め、之に乗りて僅か三十分と経ぬうちに裁判所に達すれば先ず其小使を呼びて問うに判事は今正に倉子を尋問しつゝありとの事なり、目科は更に手帳の紙を破り之に数行の文字を認《したゝ》め是非とも別室にて面会したしとの意を云い入るゝに、暫くして判事は別室に入来り目科が撥摘《かいつま》みて云う報告を聞き「成る程
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