せんでしたが、でも何方《どなた》の番地ですか目「何方ッてそれ彼《あ》の人よ」と言掛て目科は忽《たちま》ち詰り「えゝ己の様な疎匆《そゝっ》かしい男が有うか、肝腎の名前まで忘れて仕舞ッた、えゝ何とかさんと言たッけよあの、それ何とかさんよあの、えゝ自裂《じれっ》たい口の先に転々《ころ/\》して居て出て来ない、えゝ何とかさん、何とかさん、おうそれ/\彼のプラトが大変に能く懐《なじ》んで居る人よプラトが己に噛附《かみつこ》うとした時内儀が爾《そう》云た、他人で此犬の従うのは唯何とかさんばかりですッて」下女は合点の行きし如く「あゝ分りました夫なら生田《いくた》さんでしょう、生田さんなら久しく此家の旦那と共に職人を仕て居ましたからプラトを自由に扱います」目科は真実に喜びの色を浮《うか》め「あゝ生田さん生田さん、其生田さんを忘れてさ、今度は能く覚えて行う、其生田さんの居る所は何所《どこ》とか云《いっ》たッけなア」下女は唯此返事一つが己れの女主人には命より大切なる秘密と知らず易々《やす/\》と口に出《いだ》し「生田さんならロイドレ街二十三番館に居るのです目「爾々、爾云たよロイドレ街二十三番館だと、夫を全
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