け》りながら生涯人に知《しら》れずして操堅固と褒《ほめ》らるゝ貴婦人も少なからず、物を隠すには男子も遙に及ばぬほど巧なるが凡て女の常なれば倉子も人知れず如何なる情夫を蓄《たくわ》うるや図られず、若し情夫ありとせば其情夫誰なるや、如何にして見破るべきや。
 是れ実に難中の至難なり、余は及ぶだけ工夫せし末「何うだ目科君、倉子へ見え隠れに探偵一人を附けて置ては、え君、必ず此犯罪の前に情夫と打合せて有るのだから当分其情夫が此辺へ尋ねて来る事は有るまいけれど、女と云う者は心も細く所天が牢に入られ、其筋からも時々《しば/\》異様な人が来て尋問するなどの事が有ては独《ひとり》で辛抱が出来なく成り必ず忍で其情夫に逢に行くだろうと思うが」目科は余が言葉に返事もせず只管《ひたすら》に考うるのみなりしが忽然《こつぜん》として顔を上げ「いや了《いけ》ぬ、了ぬ、俚諺《ことわざ》にも鉄の冷《さめ》ぬうちに打てと云う事が有る、余温《ほとぼり》を冷ましては何も彼も後の祭だ余「では余温の冷めぬうちに甘《うま》く見破る工夫が有るのか目「随分険呑な工夫だけれど一か八か当《あたっ》て砕けるのさ余「夫にしても何う云う工夫だ目「
前へ 次へ
全109ページ中95ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒岩 涙香 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング