》しとも思われず、然《しか》らば家内同様に此家に入込てプラトを手懐得《てなずけう》る人の中《うち》と認るの外なく、凡そ斯《かゝ》る人なれば益々以て倉子が知れる筈なるに露ほども其様子を見せぬのみかは勉《つとめ》て其の人を押隠さんとする所を見れば倉子のためには我が所天《おっと》より猶お大切の人としか思われず、あゝ我が所天よりも猶お大切のひとあるや、有らば是れ何者なるぞ。
茲まで考え来るときは倉子に密夫《みっぷ》あるぞとは何人《なんびと》にも知《しら》るゝならん、密夫にあらで誰が又倉子が身に我|所天《おっと》よりも大切ならんや、唯《た》だ近辺の噂にては倉子の操《みさお》正しきは何人も疑わぬ如くなれど此辺の人情は上等社会の人情と同じからず上等の社会にては一般に道徳|最《い》と堅固にして少しの廉《かど》あるも直《たゞち》に噂の種と為《な》り厳しく世間より咎めらるれど此辺にては人の妻たる者が若き男に情談口を開く位は当前の事にして見る人も之を怪《あやし》と思わねば操が操に通らぬなり、殊に又美人の操ほど当《あて》に成らぬ者は無く厳重なる貴族社会に於てすらも幾百人の目を偸《ぬす》みて不義の快楽に耽《ふ
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