彼を佶《きっ》と見詰て「夫は僕の方で云う言《こと》だ、君こそ心を失ッたのだろう、僕が発見した敵の灸所は今まで詮策した中《うち》で第一等の手掛じゃ無いか、返事に窮して倉子のドギマギした様が君の目に見えなんだか、今一思いと云う所で何故無理に僕を制した、君はあの女に加担する気か、え君、夫とも犬が非常の手掛りだと云う事が猶《ま》だ君には分らぬか」鋭き言葉に目科は別に怒りもせず「夫だから前以て誡《いまし》めて置たのだ、成るほど犬に目を附けたは実に感心だ、多年此道で苦労した僕も及ばぬ程の手柄だ、吾々の拠《よ》る所は是から唯《たゞ》あの犬ばかり、夫にしても君の様に短兵急に問詰ては敵が直様《すぐさま》疑うから事が破れる、今夜にも倉子があの犬を殺して仕舞うか夫とも何所かへ隠して仕舞えば何うするか」成る程と感心して余は猶お我腕前の遙《はるか》に目科より下なるを会得したり。
第十回(判然)
兎《と》に角《かく》も犬と云う一個《ひとつ》の捕え所を見出したれば之を本《もと》にして此後の相談を固めんものと余等二人は近辺の料理屋に入たるが二人とも朝からの奔走に随分腹も隙《す》きし事なれば
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