力を得倉「あゝ思い出しました、爾々《そう/\》全く所天に随て行たのです余「では馬車に乗ても矢張其後に随て行く様に仕込で有ますか、何でも太郎殿はリセリウ街《まち》から馬車に乗たと仰有《おっしゃ》ッた様でしたが」倉子は一言の返事無し、余は益々切込みて充分に問詰んとするに、何故か目科は此時邪魔を入れ「詰らぬ事を問い給うな、内儀も酷《ひど》く心を痛められる際と云い三時からは又裁判所の呼出しにも応ぜねば成らぬ事だから最《も》う少しは休息なさらねば能《よ》く有る舞《ま》い、家捜《やさがし》までして何も見出さぬから最う吾々の役目は済《すん》だじゃ無いか、好い加減にお遑《いとま》に仕様《しよう》、さア君、さア」余は実に合点行かず、折角敵の灸所を見出し今たゞの一言にて底の底まで問詰る所なるに、目科は夫を詰らぬ事と言い無理に余を遮《さえぎ》らんとす、余はむッとばかりに憤《いきどおり》しかども目科は眼にて余を叱り、二言と返させずして匆々《そこ/\》倉子に分れを告げ、余を引摺《ひきず》らぬばかりにして此家を起立《たちいで》たり。
「君は心を失ッたか」とは此家を出て第一に目科が余に向い発したる言葉なりしが、余は
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