《うずたか》きほど重ねあり、目科は外の品よりも是等《これら》の瓶に尤《もっと》も其眼を注ぎ殊に其瓶の口を仔細に検《あらた》むる様子なれば余は初て合点行けり、彼れは此家の瓶の中《うち》に若し彼《か》の曲者《くせもの》が老人の室に投捨て去りし如き青き封蝋の附きたるコロップあるや否《いな》を探究《さぐりきわ》めんと思えるなり、凡《およ》そ二十分間ほども探りて全く似寄りたるコロップの無きことを確め得たれば、彼れ余に向い「何も無い、探すだけは探したから最《も》う出よう」と云う、今度は余が最先に立ち梯子《はしご》を上り、頓《やが》て元の室《ま》に達すれば、件《くだん》のプラトが又寝台の下より出来り歯を露《むき》出して余を目掛け飛掛らんとす、余は其剣幕に驚きて一足|背後《うしろ》に退下《ひきさが》らんとする程なりしが、斯《かく》と見て倉子は遽《あわたゞ》しく「プラトやこれ」と制するに犬は忽《たちま》ち鎮りて寝台の所《した》に退けり、余は漸《ようや》く安心して進みながら「随分|険呑《けんのん》な犬ですね」と云う「なに爾《そう》では有《あり》ません心は極《ごく》優いですが番犬《ばんいぬ》の事ですから私し
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