して居たと云いますから若《もし》や夫等《それら》の話から自然|彼《か》の老人の事にでも移り――倉「はい如何《いか》にも商売の暇なのは真事《まこと》ですが、幾等《いくら》商売が暇だからとて目「いえ藻西太郎も自分一身の事では無し最愛の妻も有て見れば妻に不自由をさせるのが可哀相で、夫や是《これ》から何《ど》うかして一日も早く楽に成り度《た》い財産を手に入れ度いと云う事情は有《あっ》たに違い有ますまい倉「其様な事情が有たにせよ何で伯父などを殺しましょう、所天《おっと》に罪の無い事は何所《どこ》までも私しが受合ます」目科は徐《おもむ》ろに煙草を噛ぐ真似して「藻西太郎に罪が無いとすれば彼れが白状したのは何《ど》う云う訳でしょう、真実罪を犯さぬ者が爾《そ》う易々《やす/\》と白状する筈は有りますまい」今まで如何なる問に合ても澱《よど》み無く充分の返事を与えたる倉子なるに此問には少し困りし如く忽《たちま》ち顔に紅を添え殊《こと》に其|眼《まなこ》まで迷い出せり、之れ罪の有る証跡と見る可きや否《いな》、暫《しばら》くして亦《また》も涙の声と為り「余り恐ろしい疑いを受けた為め気が転倒したのかと私しは思いま
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