人とも早速《さっそく》に参りまして十一時過までも茲《こゝ》に居ました、夫は直々《じき/\》其|両女《ふたり》にお問成《といな》されば分ります、斯《こ》う云う事に成《なっ》て見ますと何気なく二人を招《まねい》たのが天の助けでゞも有たのかと思います」あゝ是れ果して何気なく招きたる者なるや、真に何気なかりしとすれば倉子の為に此上も無き好き証拠なれど心なき身が僅か氷ぐらいの為めに両隣の内儀を招くべしとも思われず、其実深き仔細ありて真逆《まさか》の時の証人にと心に計《たく》みて呼びし者に非ざるか、斯く疑いて余は目科の顔を見るに目科も同じ想いと見えちらりと余と顔を見交せたり、去《さ》れど今は目配《めくばせ》して倉子が心に疑を起さしむ可《べ》き時に非ず、目科は又真面目になり「いや内儀決して貴女を疑うのでは有ませんが唯《たゞ》吾々の心配するには若しや藻西太郎が犯罪の前に何か貴方に話した事は有る舞《ま》いかと思うのです、何か罪でも犯し相《そう》な事柄を倉「何《ど》うして其様な事が有りましょう、爾《そ》うお問なさるのは吾々夫婦を御存無いのです目「いやお待なさい、噂に聞けば此頃商売も思う様に行かず、随分困難
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